解説B 地球環境史学研究の動向

地球環境史学会 PALEO 1, PL-000X, DOI: XXXXXX, 2013 年○月


分光拡散反射率と定量X線回折分析の組合せによるチュクチ‐アラスカ大陸縁辺上の完新世堆積物の起源(Ortizほか2009)

解説者:小林大祐(北海道大学)、山本正伸(北海道大学)


1Ortiz, J.D., Polyak, L., Grebmeier, J.M., Darby,D., Eberl, D.D., Naidu,S., Nof, D., 2009. Provenance of Holocene sediment on the Chukchi-Alaskan margin based on combined diffuse spectral reflectance and quantitative X-Ray Diffraction analysis」の解説

堆積物の粘土やシルト鉱物の組合せは,特に特有の鉱物組合せが特定のソースと関係している際には,細粒な北極海の堆積物の起源を特定するのに非常に優れた手段の一つである.アラスカ北部の大陸斜面上の高分解能を持つ堆積物コアでの分光拡散反射率(DSR)導関数法と定量X線回折(qXRD)では,堆積物の鉱物は限定される.DSRの結果はいくつかの近隣のコアの測定によって増強し,またアラスカ北部の大陸棚や斜面上の表層堆積物との比較を行った.主成分分析(PCA)を用いることによって,3つの主要なDSRモードはスメクタイト+ドロマイト,イライト+ゲーサイト,クロライト+マスコバイトの混合物に関係していることが示された.この解釈はダウンコアでのqXRDの結果と調和する.スメクタイト+ドロマイトやイライト+ゲーサイトFactorはダウンコアでの変動が大きくなったことを示す一方で,クロライト+マスコバイトFactorは約6.0~3.6kaの完新世中期に最も高い正の負荷量を持っていた.この周辺でのクロライト+マスコバイトの最も適当なソースとして考えられる地域は北太平洋である為,クロライト+マスコバイトの値の変動は,ベーリング海峡を通過して北極海へ流入する太平洋の水の増加を反映しているかもしれない.このイベントが起きた時期は,他の地域では日射量減少に対する気候システムの非線形な応答と関係しており,それは太平洋と北極海との交換する水量の変動と関係しているかもしれない.

上昇する海水温に応じて熱帯性サンゴ礁の急速な極方向への拡大(Yamanoほか2011)

解説者:森千春(東京大学)、川幡穂高(東京大学)


2Yamano, H., Sugihara, K., and Nomura, K. (2011) Rapid poleward range expansion of tropical reef corals in response to rising sea surface temperatures. Geophysical Research Letters, 38, L04601, doi:10.1029/2010GL046474」の解説

気候温暖化による気温上昇は,種の分布範囲の極方向のシフトや/または拡大を引き起こす可能性がある.熱帯性造礁サンゴ (以下サンゴ) は,いくつか世界で最も重要な種があり,さらに一次生産者であるだけでなく生息環境を形成する種であり,したがって,その分布の変化によって基本的な生態系の改変が引き起こされると予想される.気候変動のサンゴへの影響の多くの研究は,熱帯地域での温度によって誘発されたサンゴ白化現象に焦点を当てているが,極方向へ分布範囲のシフトや/または拡大も温帯地域で発生する可能性がある.私たちは,現代のサンゴの極方向への拡大について,最初の広域的な証拠を示す.それは,日本の温帯地域から国内記録である80年間に基づいており,その場の海面水温(SST)の一世紀にわたる測定値は統計的に有意な上昇を示してきた.熱帯地域のサンゴ礁形成に重要な2種を含む4つの主要なサンゴ種のグループは,1930年以降,極方向へ範囲拡大を示した.一方,分布域南限範囲の縮小または局所絶滅を示す種は認められなかった.これらの拡大の速さは他の種に比べてはるかに大きい14km/年に達した.私たちのサンゴについての結果は,熱帯性サンゴ礁に特有な生物種の分布範囲の拡大を示唆している最近の知見とともに,温帯沿岸生態系の急速かつ基本的変化が進行中であることが強く示唆された.

引用文献