Shiono Miki, Kaoru Kubota, Rei Nakashima, Kazushige Tanabe, Cornelia Brosset, Bernd R. Schone, Asuka Yamaguchi, Kotaro Shirai. 2024. High temporal resolution paleoclimate reconstruction by the analysis of growth patterns and stable isotopes of fossil shells of the long-lived bivalve Mercenaria stimpsoni from MIS 5e, 7 and 9. Palaeogeography, Palaeoclimatology, Palaeoecology.

解説者:三木志緒乃(東京大学), 窪田薫(海洋研究開発機構), 中島礼(産業技術総合研究所), 棚部一成(東京大学), 山口飛鳥(東京大学), 白井厚太朗(東京大学)

  • 受付番号:paleoa20241106001
  • 日本語タイトル:三木志緒乃, 窪田薫, 中島礼, 棚部一成, コーネリア・ブロセット, バーンド・ラインハルト・シューネ, 山口飛鳥, 白井厚太朗. 2024. MIS 5e, 7, 9の長寿二枚貝ビノスガイの化石貝殻の成長線パターン解析と安定同位体分析による高時間解像度古気候復元
  • 要旨:

過去の温暖期であるMIS 5e, 7, 9 における古環境は地球温暖化が進行していった場合のアナログとして盛んに研究されている. これらの時代, 地球全体としては現在よりも気候が温暖で海水準も高かったことが知られている. 当時の関東平野には古東京湾が広がっており, その海底に堆積した地層は下総層群と呼ばれている. 古東京湾があった時代は全球的には温暖だったはずだが, 下総層群からは寒冷種である二枚貝の化石が多産することが知られていた. しかし, 古環境を高い時間分解能で長期間記録できる生物起源アーカイブが知られていなかったため, 当時の古東京湾における海水温の季節変動までは分かっていなかった. 本研究では, 間氷期 MIS 5e, 7, 9 における古東京湾の海水温の季節変化を明らかにすることを目的とした. 寒冷種である長寿二枚貝ビノスガイ(Mercenaria stimpsoni)の化石貝殻は下総層群から産出し, その中には, 保存がよく準現地性の産状を示す合弁の化石を多く含むことが知られている. そこで, 本研究ではMIS 5e, 7, 9に堆積した地層から産した本種の合弁化石を素材として, まず貝殻の成長線解析を行い本種の化石貝殻の寿命と成長パターンを調べた. さらに, μXRD分析およびSEM観察により, 化石貝殻が変質を受けていないことを確認した. その上で, 貝殻の酸素同位体比分析によって海水温を復元した. 成長線パターン解析の結果, 過去の間氷期における本種の化石貝殻が, 現生貝殻と同様に少なくとも 100 年程度の寿命があったことが示された. また, 化石貝殻の保存状態がきわめて良好であり, 当時の海水温を復元するために適していることも確かめられた. 貝殻の酸素同位体比分析の結果, 古東京湾における間氷期 MIS 5e, 7, 9 の海水温を季節変動レベルという高時間解像度で復元することに成功した. 当時の海水の酸素同位体比についていくつかのシナリオを検討し,過去の海水温を計算したところ, 復元された夏の最高水温は現代の千葉県沿岸の最高水温と比較して5℃以上も低かった(海水の酸素同位体比を-0.1‰とした場合)ことが明らかになった. 間氷期の温暖な時代に古東京湾が寒冷だったことは, 親潮のような冷水塊が古東京湾に到達していたことで実現していたと考えられる. このような冷水塊の南下は少なくともビノスガイの寿命である100年ほどは継続していただろう.  
プレスリリース元のURL:https://www.aori.u-tokyo.ac.jp/research/news/2024/20241102.html