Okazaki, Y., Kimoto, K., Asahi, H., Sato, M., Nakamura, Y., Harada, N., 2014. Glacial to deglacial ventilation and productivity changes in the southern Okhotsk Sea. Palaeogeography, Palaeoclimatology, Palaeoecology 395, 53-66.

解説者: 岡崎裕典(九州大学)

  • 受付番号:paleoa20140324001
  • 日本語タイトル:岡崎裕典・木元克典・朝日博史・佐藤都・中村由里子・原田尚美, 2014. 最終氷期から最終退氷期の南部オホーツク海におけるベンチレーションおよび生物生産変化
  • 要旨:

現在のオホーツク海は、北太平洋中層水の主要起源域として、北太平洋の海洋循環に重要な役割を果たしている。最終氷期から最終退氷期にかけてのオホーツク海の海洋環境変化を明らかにするため、オホーツク海南部知床沖で採取された堆積物試料の分析を行った。底生有孔虫の放射性炭素年代から見積もったΔ14C(水深1200 m)は、18-15 ka(ハインリッヒイベントI)にベンチレーションが良くなることを示し、当時の北太平洋のベンチレーションソースの一つであったことを示唆した。ただし、このデータは暦年代を内挿して計算している点に注意が必要である。浮遊性有孔虫の破片率からは、炭酸カルシウムの保存が18 kaから良くなったことを示した。ベーリングアレレード期(BA期)とプレボレアル期(PB期)に顕著なCaCO3含量ピークが見られるが、破片率からは炭酸カルシウムの保存がそれ以前から良くなっていたことがわかった。生物源オパール含量とバルク堆積物の窒素安定同位体比データからは、最終退氷期のオホーツク海南部は強い栄養塩制限下にあり、完新世に入って有光層への栄養塩が徐々に増加し珪藻の生産が増加したことがわかった。
ポイント1: 最終退氷期のオホーツク海のベンチレーション変化を初めて示し、ハインリッヒイベントI時にベンチレーションが良かったことを明らかにした。氷期北太平洋中層水の起源域はオホーツク海ではなかったことがKeigwin (2002, Jour. Oceanogr.)とOhkushi et al. (2003, Quat. Sci. Rev.)で指摘されているが、本研究から、H1期は一時的にオホーツク海のベンチレーション変化が良かったことがわかった。現在の中層水起源域としてのオホーツク海は完新世に成立した可能性が高い。
ポイント2: 炭酸カルシウムのピークがBA期とPB期にみられることは北太平洋高緯度域でよく知られているが炭酸カルシウムの保存はそれ以前のH1期から良くなっていたことを示した。
ポイント3:最終氷期以降の窒素安定同位体比を比較的高解像度で測定し、最終退氷期以降の栄養塩制限について情報を得た。

Nagashima, K,Tada, R., Toyoda, S., 2013. Westerly jet-East Asian summer monsoon connection during the Holocene, Geochemistry, Geophysics, Geosystems, 14, doi:10.1002/2013GC004931.

解説者: 長島佳菜(海洋研究開発機構)

  • 受付番号:paleoa20140401001
  • 日本語タイトル:長島佳菜・多田隆治・豊田新,2013. 完新世における偏西風-東アジア夏季モンスーンの密接な関係
  • 要旨:

近年、東アジア夏季モンスーン(以下、夏季モンスーン)の降雨量を示す複数の古気候指標から、完新世における千年~数千年スケール(もしくはより短い時間スケール)での降雨量変動が数多く報告されている。しかしながら、完新世の千年~数千年スケールの夏季モンスーン変動が何によって引き起こされているのか,その原因についてはほとんどわかっていない。そこで本論では,完新世における夏季モンスーン降雨の時空間変動と上空の偏西風ジェットとの関係を検証した。本論では東アジア上空の偏西風の変動を復元するために、日本海堆積物に含まれる風成塵の供給源推定を行った。その結果、日本海堆積物に含まれるモンゴル南部ゴビ砂漠起源の風成塵の相対比(タクラマカン砂漠から供給された風成塵に対する割合)は11.5–10, 7–5, 3.5–1.5 kyr B.P.に減少することがわかった。これらの時代には、東アジア上空の偏西風ジェットの北への季節進行が早く、モンゴル南部ゴビ砂漠から供給された風成塵(偏西風ジェットが南に位置するときに輸送されやすい)の相対比が減少し、タクラマカン砂漠起源の風成塵(偏西風ジェットが北に位置するときに輸送されやすい)の相対比が増加した可能性が高い。またこれらの時代は、現代の夏季モンスーン北西境界域における降雨の増加や、中国の東北部や揚子江流域における降雨の減少が見られた時代と一致していた。このことから、偏西風ジェットの北への季節進行が早まると、偏西風ジェットに伴って発達するモンスーン前線の北への進行も早まり、夏季モンスーンの北西境界での降雨増加と、他の夏季モンスーン域での降雨減少をもたらしたと推測される。したがって、完新世における偏西風ジェットの経路の変動が、夏季モンスーンの千年~数千年スケールの変動およびモンスーン降雨の北西-南東コントラストを引き起こした可能性が高い。偏西風ジェットの経路は、完新世の東アジアモンスーンのダイナミクスを理解する上で非常に重要である。

Ikenoue, T., Ueno, H., Takahashi, K., 2012. Rhizoplegma boreale (Radiolaria): a tracer for mesoscale eddies from coastal areas. Journal of Geophysical Research, 117, C04001, 8 pp.

解説者: 池上隆仁(九州大学)

  • 受付番号:paleoa20140401002
  • 日本語タイトル:池上隆仁, 上野洋路, 高橋孝三, 2012. Rhizoplegma boreale(放散虫類):沿岸域からの中規模渦のトレーサー
  • 要旨:

放散虫とは珪酸塩の骨格を持つ海洋動物プランクトンであり, その生産量や地理的分布は, 海洋環境の変化を反映する. 本論文では, 放散虫群集と中規模渦の関係を明らかにし, メソスケール擾乱が海洋動物プランクトンの群集構造に与える影響を示した. 海の流れには, アラスカ海流や亜寒帯海流のような大きな流れの他に, 数十から数百キロメートルの大きさの渦状の流れがあり, 中規模渦と呼ばれている. 中規模渦は遠く離れた海域に異なる温度や塩分の海水を運ぶ役目を担っており, 海洋環境に変化をもたらす重要な現象として注目されている. アラスカ半島, アリューシャン列島南岸域で発生した中規模渦は, 渦中心に沿岸水を保持して移動することや, 渦周辺に南北の流れを生じることにより, 沿岸域と外洋域の海水を交換する重要な役割を担っている. 中規模渦と植物プランクトンの一次生産との関係については, 多くの研究例があるが, 動物プランクトンとの関係を時系列で長期にわたり明らかにしたものは, 本研究が初めてである. 本研究では, 北太平洋亜寒帯域の観測定点ステーションSAにおいて1990年から2005年までの15年間にわたり継続して採集された海洋沈降粒子試料を用いた. 中規模渦が沿岸水を運ぶことから, 沿岸域に特徴的な群集を形成するRhizoplegma borealeという種に着目した. 海洋沈降粒子中の放散虫群集の季節・経年変化と衛星観測による海面高度の解析から, アラスカ海流を西進する中規模渦の伝播時期と北太平洋亜寒帯域(ステーションSA)の放散虫フラックスの増加時期がよく一致することを発見した. 放散虫群集は珪酸塩の骨格が海底堆積物中に化石として保存されるため, 衛星観測データの無い時代における中規模渦の指標として役立つ可能性がある.